部下を自主的に動かす方法: ティーチングとコーチング
最近、流行りのものに体重減量目的の個室ジムがある。体重を減らしたい人が自主的に目標を決め、トレイナがそれを指導・支援する仕組みだ。自分で決めた目標だから自分に責任がある。又、結果は客観的な指標であり、主観的な評価は含まない。勿論、組織としてはトレイナにも顧客の目標達成に対する責任があると考えているであろう。このような関係を上司と部下、会社と従業員に作ることによって、自主的に目標達成に動く仕組みができ、社員のモチベーション・責任感を向上させる原動力となる。
因みにこのプログラムは何故評判なのだろうか。何かうまく行く秘訣があるのだろうか。
- プログラムの内容が良い。
- トレーナが教育されている。
- 個室である。
- …
考え方は色々あろう。ここでは、トレーナと参加者の関係に注目してみる。考えてみると、トレーナは参加者を支援する立場にいることが分かる。「支援する立場」にいることで、責任の所在が違ってくる。目標達成の責任は飽くまで参加者自身にあるのである。下手をするとトレーナが悪いから減量がうまく行かないと言われかねない。ここでは参加者の主体性を重んじることで、責任が参加者にあることを明確にしていると考えられる。勿論、個室ジムの社内では参加者が減量に失敗すればトレーナの責任が問われていると思われる。
トレーナは参加者に対して、指揮命令する立場ではなく、豊富な経験と知識を活かして、参加者の目標が達成できるように支援する立場である。
「指導」ではなく「支援」するという立ち位置をつくる
客観的評価の重要性
では、どのようにしてこの「支援する」という立ち位置を作れているのだろうか。私はこのプログラムに参加したわけではないので、想像してみる。一つには話し方かもしれない。常に参加者の為を思って発言を繰り返すことで、立ち位置をぶれないようにすることができるだろう。例えばトレーナは「~してはいけません。」とか「~してください」という言い回しを使わないようにしているかもしれない。目標達成は参加者の利益となることが明白である。また、目標が客観的であることも一要因であろう。減量という分かりやすく客観的な指標を用いることで、トレーナが参加者を評価する必要がない。目標に対する達成が明確だからである。もう一つの仕掛けは、個室ということではないだろうか。参加者は時間中、トレーナに比較的自由に質問することができ、1:1の親密な関係の構築に一役買っているのであろう。勿論、親密さが大切なのではなく意思疎通が大切であると思われる。トレーナも参加者もそれぞれの考え方を良く知る必要があると思われるからである。
「支援する」という立場を作る要素
- 言い回し
- 目標達成と参加者の利益の明白な関係性
- 客観的な目標
- 意思疎通
コーチングとティーチングという言葉がある。コーチングは、相手の内側から答えを引き出し、ティーチングは相手に答えを教えることだそうだ。これだけでは何が何やら良く分からない(私の場合は)。
ここでは簡単に、ティーチングが指導すること、コーチングが支援することと考えてみるとすっきりするのではないだろうか。即ち、ティーチングは鬼監督が選手を指揮、監督するイメージで、コーチングはカウンセラーがクライアントのやるべきことを整理し、必要な支援を差し伸べてくれるイメージであろうか。
管理職としてのリーダシップのあり方
コーチングを会社の上司と部下にも適用できないであろうか。P.ハーシーとK.ブランチャードは シチュエーショナル・リーダーシップ(Situational Leadership)を提唱した。 この理論は、意欲と能力からメンバーを4つに分類し、 それぞれに対して適切なリーダーシップの在り方を示唆したものである。
低←---メンバの意欲---→高 | ||
---|---|---|
高 ↑ | | | メンバの 能力 | | | ↓ 低 | 3. 相談(カウンセリング)型リーダシップ
| 4.委任(エンパワメント)型リーダシップ
|
1. 教示(指導)型リーダシップ
| 2. 伴走(コーチ)型リーダシップ
|
この理論では、意欲も能力も低いメンバーに対しては、具体的に指示し、行動を促す教示(指導)型リーダーシップ、意欲は高いが能力は低いメンバーに対しては、こちらの考えを説明し、疑問に応えながら、共に仕事を行う伴走(コーチ)型リーダーシップ、意欲が低く能力は高いメンバーに対しては、自立性を促すため激励したり、相談をしながら考えを合わる相談(カウンセリング)型リーダーシップ、意欲も能力も高いメンバーに対しては、権限や責任を委譲する委任(エンパワメント)型リーダーシップが有効であると唱えている。
考えてみれば当たり前の理論ではないだろうか。 意欲の低い若手社員には一つ一つ指導して仕事をさせなければならないだろうし、 意欲の高い若手社員には仕事のやり方を教えてあげるのが良い。 意欲の低いベテラン社員には丁寧な意思疎通で考え方を理解してもらう必要があるだろう。 意欲の高いベテラン社員には当然、経営陣の一人として管理職に取り立て、 仕事をしてもらった方が良い。
部下への指導、接し方
それでは、自社の上司と部下の関係にコーチングをどうやったら導入できるのだろうか。先程の減量ジムの例で考えてみると、トレーナと参加者の関係は「言い回し」「目標達成と参加者の利益の明白な関係性」「客観的な目標」「意思疎通」の3つと捉えた。だとすれば、まず、目標達成が社員の利益とどう関係するのか丁寧に説明する必要がある。また客観的な目標と評価の仕組みを導入する。一般的に人事考課は上司によって行われるが、利益目標や360°評価(周囲からの評価)を導入し、比重を高めていく方法がある。また、目標と実績の差異に対して上司、部下が一体となって対策を立てさせる方法もあるだろう。勿論、管理職研修を通じて、管理職として心構えを指示型、伴奏型、相談型、委任型等と使い分けられるよう環境を整えることも大事である。
結論として、社員のモチベーション・責任感を高める為には、目標と社員の利益の関係を丁寧に説明する。そして、客観的な目標と評価を整備するということになる。