管理会計: 固定費・変動費の分け方
固定費・変動費とは?
固定費・変動費は管理会計の考え方で、費用を売上に連動する変動費、売上とは独立して発生する固定費に分けて考えます。
例えば、変動費として考えられるのは、仕入原価(売れた商品の仕入れ値)、原材料費、外注費、運送費(荷造り梱包費)、販売手数料などが挙げられます。それ以外は固定費になります。同じ科目でも、売上に連動すれば変動費に入れますし、逆に売上とは関係なく発生した費用は固定費に入れます。原材料費は、製品を造るための原材料費は変動費ですが、試作品を作るための費用は固定費になります。
管理会計とは、経営判断に活かす目的で計算される会計です。管理会計以外に財務会計、税務会計という用語があります。財務会計は公開会社を含め幅広く一般的に財務諸表を作るため会計基準、税務会計は日本において税金を計算するための会計基準です。詳しくは別稿にまとめましたので、そちらをご参考ください。
一般的な使われ方
管理会計で固定費・変動費と言えば、上記の通りですが、固定費・変動費という言葉は管理会計とは関係なく一般的な用法もあります。このような場合には、定期的に同額発生する費用を固定費、会社の裁量で調整できる費用を変動費と呼ぶことがあります。会社のWebサイト改修費は、管理会計では固定費ですが、この一般的な用法では状況に応じて上下できるので変動費になるわけです。固定費・変動費と話している人がどういう文脈で使っているのかを考えてみてください。
何故、固定費・変動費に分けるのか?
前述のように、管理会計は経営判断に資する目的で行われる会計です。従って、固定費・変動費に分けるのも分かりやすいからというのが第1の目的です。特に計画を作る際には、固定費・変動費で分けておいた方が大幅に計算が簡潔になります。
例えば、5年後に売上2倍を目指すとします。仕入れや、原材料調達、輸送費、販売手数料が今のままだとすると、変動費は単純に2倍で計算できます。財務会計の”原価”には労務費(人件費)や減価償却費(設備投資を年割した費用)等が含まれます。これらの費用は売上が2倍になっても単純に2倍にはなりません。初めから変動費は変動費率を計算しておけば、計算が簡単です。
言ってみれば、財務会計は売上を作るための費用を厳密に計算し原価に入れるという考え方、管理会計は売上に連動する費用を割り切って変動費として計算するということです。
他にも損益分岐点計算を行う際には、固定費・変動費に分けられている必要があります。つまり、利益が0になる売上高を計算するには、固定費÷(100%-変動費率)という式を使いますので、固変分解が必要ということです。
計算方法
管理会計も財務会計を元として計算します。従って、財務会計の精度が低い場合には、管理会計の精度も低くなります。このような場合にはまず財務会計の精度を改善しましょう。
財務会計のデータを元に、科目ごとに分ける方法と明細(仕訳)毎に分ける方法があります。
- 科目ごとに分ける方法
この方法では、決算書や試算表の勘定科目ごとに固定費・変動費を分けていきます。勿論、同じ勘定科目の中に固定費も変動費も含まれている場合には、その内訳で計算する必要があります。計算方法が簡単で、分析する人が独力でできますので、後付けで計算・分析する場合に頻繁に使われます。コンサルティングの現場でもほぼこの方法です。
- 明細(仕訳)ごとに分ける方法
一方、明細ごとに分ける方法は、経理担当者が取引を会計ソフトに入力する際に固定費・変動費の情報を入力しておく必要があります。しかも、多くの場合、経理担当者は当該の取引が固定費に当たるのか、変動費に当たるのかの情報を持っていません。それを知っているのは、受注・製造に関わる担当者ですので、改めて運用を検討する必要があります。つまり組織的に取り組まなければならないということです。しかしながら、経理担当者が入力して直ぐに分析・活用できますので、科目ごとに分ける方法に比べて実時間性は非常に高くなります。自社で管理会計を活用している場合にはこの方法が多いようです。
固定費・変動費の分け方
前述のように変動費は売上に連動する費用、固定費はそれ以外の費用ということになります。基本はそうなのですが、細かいところで良く質問がある点を下記にまとめました。
- 変動部分と固定部分の両者が含まれる費用は?
分ける必要があります。例えば、売上連動+固定家賃(店舗家賃を固定と売上連動の合算で払う場合)場合には2つに分けて計算します。他にも外注費で、Webサイト制作は固定、製造委託は変動費になります。前述の通り、経営判断の役に立つことが重要ですので、額が大きいものはしっかり分けましょう。逆に額が少なく影響が少ないものは無視して構いません。
- 利益は営業利益、経常利益、最終利益のどれに設定するか?
悩ましいところですが、逆に言うとどれでも良いとも言えます。経営計画として、金融機関や出資者へ見せる前提であれば、やはり最終利益を利益として設定するのが望ましいでしょうし、経営幹部への情報共有が目的であれば、営業利益でも良いでしょう。一般的には経常利益を使うことが多いです。つまり、通常業務内での利益=経常利益を使います。
- 一時費用は?
固定費か変動費かといえば固定費ですが、固定費・変動費とは別に臨時費や一時費という大科目を設けても良いと思います。というのも、財務会計では特別損失、特別利益といってその期だけの臨時的に発生した費用を分けて計算しているからです。例えば、不動産や設備処分の結果である固定資産売却損とか、在庫の金額評価をやり直した場合の棚卸資産評価損とかが特別損失に当たります。管理会計でもこれに準じて特別且つ一時的な費用を分けて考えた方が分かりやすいかと思います。財務シミュレーションや財務計画策定の際には、やはりこの費用は来期も発生するのかどうかが大事になってくるからです。また、固定費という名前からどうしても常に発生する費用を想像してしまいますので、改めて臨時費/一時費と分けた方が分かりやすいかもしれません。
- 人件費は?
人件費は基本的に固定費である場合が多いですが例外もあります。例えば、製造業で受注生産をしており、製造アルバイト代は受注に応じて上下する場合、派遣業で業務が発生するまで派遣社員への固定的な支払いがない場合、売上に対する営業社員へのコミッションの場合等は変動費になります。収益構造をよく考えた上で、分析や計画立案の際に計算がやりやすい方法を選びましょう。
- 広告費は?
広告費は基本的に予算を決めて執行し結果を見て調整を行っていくものですので固定費です。広告のビジネスモデルは基本的に結果に責任を負いませんので、結果が良ければ続けるということでしかありません。但し、広告費に対して具体的に売上高が読めるようになれば変動費と考えることもできます。例えば、新聞広告を出している通信販売であれば、何回か行うことにより広告費と売上高の関数が見えてくるのではないでしょうか。そこまでになれば変動費としても良いです。
- 法人税等は?
法人税は固定費です。しかし、法人税は唯一、利益に比例して支払う費用です。実務例では固定費・変動費とは別立てで計算することが多いです。
管理会計の導入方法
管理会計の導入方法やシステム連携については別稿にまとめました。ご参考ください。
いかがでしょうか。参考になったでしょうか。当社のRubus Systemでは、管理会計(部門別採算制/部門別損益計算)のシステム及び管理会計導入のための運用支援を提供しています。ご関心ある方は下記の例をご参考ください。