経営者のための目標管理(MBO)入門
目標管理は社員自らが計画を立て、それによって自己管理を行っていく経営手法です。社員に目標を設定し、達成度により評価を定める人事制度というのは間違いです。有名なP.ドラッカーが提唱した概念です。社員は会社の目標を理解した上で、自らの組織貢献を最大とすべく、自分の目標を設定し、それにそって自己管理すべきであるという考え方です。
目標管理とは?
目標管理は元々 “Management by Objectives and Self-Control” の頭文字を取ってMBOと呼ばれた経営管理手法です。P.ドラッカーが「現代の経営」(1954)で提唱しました。
P.ドラッカーはどんな人?
P.ドラッカーは1909年から2005年まで生存したユダヤ人で、ドイツ→イギリス→アメリカと移住しました。経営哲学者として有名です。「顧客の創造」や「民営化」、「知識労働者」という言葉を造った人です。「マネジメント」「現代の経営」「イノベーションと企業家精神」といった代表著作があります。P.ドラッカーの要請で、アメリカ大手自動車メーカーのゼネラルモーターズ(GM)が、社外の立場から会社を調査し、報告することを受け入れ、これが経営コンサルタントの最初に当たると言われています。
何故、MBOを思いついたのか?
P.ドラッカーは前述のゼネラルモーターズ(GM)で事業部制が良好に機能していることを知りました。つまり、会社全体を事業部として細分化し、権限移譲を行うことが会社経営の要点ということです。これが分権化のコンセプトになりました。一方、GMでは社員は「コスト」に過ぎず、経営と社員が協調して何かやる組織ではなかったのです。
P.ドラッカーは前述の通り、ナチスを逃れて、イギリス・アメリカと移住しました。このような経験が反・全体主義の社会を考える上で、企業と個人の関係を考えるにあたって大きな影響を及ぼしたと考えられます。つまり、全体主義を駆逐する社会制度として、企業を考えたわけです。
当時のGMのような上意下達の組織を超えて、社員個人目標と組織目標の統合を図り、社員は組織によって管理されるのではなく自己管理すべきであるというのが目標管理 “Management by Objectives and Self-Control” の概念です。
目標管理(MBO)の要点
目標管理(MBO)の要点は以下の通りになります。
- 社員に期待される成果は、組織目標に基づいて決められる。
- 社員は、組織目的が自分の仕事に対して求めるものを知り、理解する。
- そして上司は部下に対して、彼らの貢献に基づいて評価する。
目標管理はその後どうなった?
目標管理(MBO)の概念は一見、良さそうなのですが、その後、どうなったのでしょうか。
世界(主にアメリカ)
日本
日本では不況のたびごとに目標管理(MBO)がブームになります。その内容は、結果重視の管理、成果主義、ノルマ主義と密接に結びつけられて紹介されてきました。
日本では特に
- 人事制度として展開された
- 売上目標を社員個人目標に細分化
- 目標達成度に応じて人事評価実施
ということが行われました。
日本の大企業では、職能等級制度といって、社歴や経験で能力を等級化し、それを元に賃金を支払う年功型賃金制度を採用していました。但し、「職能」は業務遂行能力を意味するのですが、結局社員の能力を評価ことは難しく、年功型になってしまうわけです。職能等級制度を代替する制度として、目標管理は広く採用されました。
どこがダメだったか?
日本での目標管理(MBO)導入は以下のような問題がありました。
- 目標数値を売上にしており、利益度外視の営業が可能であった。
- 社員が自ら目標を立てるのではなく、売上目標を頭割りした。
- 日本の消極的な風土によって、自ら目標を立てられるような積極的な社員が少なかった。
- 業務に未熟達な社員も対象にしたため、目標を自ら設定できない社員がいた。
- 人事制度という形式だったため、期初に目標設定、期末に人事評価を行うのみで、社員に目標を意識させる機会が少なかった。また、期中で事業環境の変化などから方針が変わった場合に対応できなかった。
- 目標の達成度で人事考課を行った為、社員の目標設定は低い目標に集中した。
要は、売上目標を頭割りして個人目標を決め、期中はほったらかして、期末に目標達成度で人事評価を行ったため、社員はやる気にならず、若手社員は放置され、目標達成度で評価されるので皆でなるべく低い目標設定を行ったということです。
目標は決めた時点では正しくとも、事業環境の変化の為、目標で決めたこと以外のことをやった方が組織貢献が高まる場合があります。また、人によって目標の設定には上下があります。従って目標達成度は人事評価にはなりえないのです。P.ドラッカーも「組織への貢献」に基づいて社員を評価すると言っていますが、日本に導入された時に目標達成度で評価するということに置き換わってしまいました。これではむずかしいですね。
目標管理の課題については、別稿に改めました。ご参考まで。
MBO運用面の課題とは?
MBOの運用面での課題を別稿に整理しました。関心ある方のご参考まで。
- ▶ [参考] 目標を決めるのに時間が掛かる
- ▶ [参考] 目標に対する熱意が持続しない
- ▶ [参考] 低い目標に集中してしまう
- ▶ [参考] 社員のモチベーションが低い
- ▶ [参考] 管理職の意欲・能力が低い
- ▶ [参考] 目標が達成できない
類似の経営管理手法(最近の展開)
MBOをより具体的に運用面まで実装したものとしてOKRを紹介します。
OKR
目標の設定・管理方法の1つで、Objectives and Key Results: 目標と主要結果の略称です。米・インテル社で誕生し、Googleも採用していることで、近年注目を集めています。組織目標をKPI(何らかの数値指標)に分割し、これを下位部署の目標として更にそのKPIに細分化していく手法です。
運用面でも旧式の目標管理人事制度の課題が良く考えられています。目標管理人事制度では評価&見直しは1年に1回でしたが、OKRの方は1カ月~3カ月での評価・見直しが推奨されています。数値目標の設定についても、最善を尽くせば出来そうという水準の目標を設定し、達成度60~70%で成功したと評価します。人事評価とは切り離されています。
社員個人の自主性・自律性、自己管理という面ではP.ドラッカーのMBOから大分後退していますが、実用面ではOKRの方が有益なのではないかと思います。実際、会社の状況を分析し、自分で目標設定をして業務を遂行できる人材は社内でも限られています。MBOをコンセプト版/経営哲学版とすると、こちらのOKRは実運用版ということで、運用面で参考になる要素が大きいかと思います。
いかがだったでしょうか? お役に立つ内容だったでしょうか? MBOでは目標、OKRではKPIという話題がありました。企業である以上、利益は目標やKPIから外せません。当社では、管理会計(部門別採算制)の手法を用いて、各事業、各部署等、マネージャがユニットの利益計画を策定し、計画と実績の差異を表示することで、マネージャのエンゲージメントを高め、採算管理の精度を向上させる仕組みに取り組んでいます。ご相談があればご連絡ください。